2011年6月12日更新  

 

JNNCU(2008〜   )
日本女性差別撤廃条約NGOネットワーク : Japan NGO Network for CEDAW (JNNC)




国連女性差別撤廃条約へ送付した NGOレポート
〜pdf形式はこちらから〜(2011.6)

◆国連女性差別撤廃委員会から届いた評価に関するJNNCの見解(2011.11)はこちら



国連女性差別撤廃委員会 御中


2011年6月30日
日本女性差別撤廃条約NGOネットワーク
(Japan NGO Network for CEDAW )

  1. 私たちは、日本における女性差別撤廃条約の実施に強い関心をもつ46のNGOのネットワークです。2002年に結成し、2003年のCEDAWにおける第3回日本レポート審議には57人がニューヨークへ傍聴に行き、その「総括所見」の実施に向けた活動をいたしました。また、2009年の第4回日本レポート審議には、84人がニューヨークへ飛び、現在も「総括所見」の実施に向けて月例会をもち、精力的な活動を続けております。

  2. なかでも、「総括所見」のフォローアップに強い関心をもっており、2010年夏には、ドゥブラヴカ・シモノヴィッチ特別報告者を日本にお招きして、全国各地で講演をしていただき、政府関係者に警鐘を鳴らしていただきました。シモノヴィッチ委員は、日本中の女性たちの女性差別撤廃条約への関心を喚起し、政府関係者にフォローアップの重要性を伝えてくださいました.

  3. この間、2009年9月には政権交代があり、2010年12月には第3次男女共同参画基本計画の策定があり、フォローアップ項目実施への政府の体制が整ったかに思いました。しかし、現政権は、6月27日の改造で女性大臣は一人からゼロとなり、2011年3月11日に東日本大震災が起きると、その復興構想会議には、15人中女性は一人しかおりません。この政権には、ジェンダー平等への認識が決定的に欠けています。

  4. 日本の女性差別撤廃条約批准後、26年が経過しました。2つのフォローアップ項目は、まことに適切なもので、いままさに日本が取り組まなければならないことであり、かつ実現可能なことであると私たちは思っています。また、女性差別撤廃条約の保障する権利が私たちのものになるためには、選択議定書の批准が不可欠です。しかし、残念ながら、いずれも実行されてはおりません。最大の欠陥は、ポリティカル・ウィルの欠如にあります。

  5. 私たちは、第3次男女共同参画基本計画が、女性差別撤廃委員会「総括所見」の実施状況についての監視機能の強化をうたい、監視専門調査会を設置してフォローアップ項目の検討を開始したことに期待をいたしました。しかし、フォローアップに関する会議は、2011年4月以降わずか2回開催されたに過ぎず、到底十分な議論が尽くされたとはいえません。また、フォローアップ報告書の策定に当たって、NGOとの意見交換はほとんど行なわれませんでした。

  6. ここに、日本女性差別撤廃条約NGOネットワークがこの2年間に取り組んできたことを中心に、2つのフォローアップ項目への現状分析および提言と「総括所見」全体の進捗状況一覧をお送りいたします。
    日本の現状を熟知しておられるシモノヴィッチ特別報告者をはじめCEDAW委員の皆様のご賢察と日本へのさらなるご示唆を期待しております。

T 差別的な法規定 パラ18

1.総括所見以降の動き

2009年8月に行われた衆議院総選挙では、民法改正の議員立法案を提出してきた民主党が過去最高の308議席を獲得し、政権交代が実現した。法務大臣には、議員立法案の筆頭発議(提出)者を務めてきた千葉景子参議院議員が就任した。就任会見で千葉法務大臣は、2010年の通常国会での法案提出に意欲を見せた。しかし、その直後、連立を組む国民新党代表の亀井静香金融担当大臣が夫婦別姓に反対を表明し、民法改正を選挙公約にしていた民主党の中からも公然と反対を主張する議員が出始めた。
2010年の通常国会開会時には政府が、民法及び戸籍法の一部を改正する法律案を3月中旬に提出予定であることを明らかにした。ところが、与党内がまとまらず、閣議決定は見送られた。政府案の提出を待っていた野党からも議員立法案が提出されなかったため、97年から政権交代直前の09年の通常国会まで提出してきた民主党が、政権を執って初めて通常国会に法案が提出されないという皮肉な結果となった。

2010年3月24日付法務省民事局民事第一課長通知により、出生届の「嫡出子又は嫡出でない子の別」が未記載の場合でも、「その他」欄に「母の戸籍に入籍する」等の記述をすれば受理することを認めた。

2010年7月の参議院選挙では、民主党は党内の反対派の合意が得られず選挙公約から民法改正を外した。また、自民党、国民新党、たちあがれ日本の3党が、「選択的夫婦別姓に反対」を公約に掲げた。

第3次男女共同参画基本計画策定過程では、与党内に民法改正について否定的な記述を求める動きがあった。2010年7月に男女共同参画会議議長の仙谷由人官房長官から菅直人総理に答申された案の段階では「民法改正が必要である」と明確に記述されていたが、同年12月17日に閣議決定された基本計画では「夫婦や家族の多様化の在り方や女子差別撤廃委員会の最終見解も踏まえ、婚姻適齢の男女統一、選択的夫婦別氏制度の導入等の民法改正について、引き続き検討を進める」と、法改正の必要性の直接的表現を削除した。

2011年の通常国会では、民法改正は予定提出法案にもならなかった。
政権交代による民法改正実現に期待を寄せていた多くの当事者やNGOは、民主党政権に失望するだけでなく、政治(国会)に対する不信を一層深め、2011年2月14日、夫婦同氏規定の違憲性および女性差別撤廃条約違反を問う初めての国家賠償訴訟を提起した。
婚外子相続差別規定の違憲性を問う訴訟では、最高裁が審理を大法廷に回付したことから95年の合憲判断を見直すのではないかと期待されたが、当事者間の和解により、2011年3月9日却下された。相続人が婚外子と養子で争った別の訴訟では、東京高裁が適用違憲の判決を下し、現在、最高裁に係属中である。

政府は2011年2月15日、第3次男女共同参画基本計画に基づき「監視専門調査会」を設置し、CEDAW総括所見のフォローアップの監視や基本計画に記述された具体的施策の進捗状況などを監視することとした。

2011年5月23日に公開された教科書検定によれば、各教科書会社が夫婦別姓に関する記述を見送ったことがわかった。わずか1社が夫婦別姓を取り上げたが、夫婦別姓に関する世論調査結果を示し、「夫婦同姓制度も家族の一体感を保つ働きをしていると考えられています」と、民法改正に否定的な論評を行った。

民法改正を求める請願は、1975年に始めて国会(衆議院)に提出されてから、請願件数は35年間で3509件(2011年6月22日現在衆議院)に上った。
法務大臣の諮問機関である法制審議会が5年間審議し、1996年2月に民法改正の法律案要綱を答申してから今年で15年が経過した。法制審が法律案要綱を答申してたなざらしとなっているのはこの法案だけであることが、2011年4月26日の衆議院法務委員会で明らかとなった。
2011年1月27日の本会議で、菅総理は民法改正を求めた野党に「法制審議会答申を踏まえ、引き続き与党内で調整していきたい」と答弁したが、6月22日まで与党内の調整はほとんど行われていない。また、野党からも議員立法案は提出されていない。

2.NGOの評価と提言

民主党は、政権交代の直前まで他の野党とともに議員立法案を提出し続け、政権交代を問う選挙では公約に掲げながら、現在まで法改正を行っていない。このことは、過去の政治(政策)への責任を放棄し、有権者を欺くものである。
35年以上も民法改正を求める請願が出されながら、唯一の立法機関である国会が、人権に関わる請願をこれほど長く放置し続けていることは極めて問題であり、立法不作為の責めは免れない。

2010年3月24日付民事局民事第一課長通知により、出生届の「嫡出子又は嫡出でない子の別」が未記載の場合でも、「その他」欄に「母の戸籍に入籍する」等の記述をすれば受理することを認めたことは、法改正できない中、一歩前進とも言えるが、嫡出概念を撤廃せず、相続差別規定も残しており、根本的な問題解決にはなっていない。
婚外子相続差別訴訟の最高裁大法廷回付で、違憲判断の可能性が出てきたことから、政府、与党は法改正を視野に入れた議論を行ってきたが、和解により却下となって以降、これを放置している。

民主党は、民法改正について閣議決定をしない理由に、連立のパートナーである国民新党が夫婦別姓反対の選挙公約を掲げ、反対していることを挙げている。改姓を望まない人にも改姓を強制することは人格権を侵害するものである。これまで民法改正を公約に掲げ、度々法案を提出しておきながら、人権侵害を公約に掲げる政党の主張を優先することは許されない。

第3次男女共同参画基本計画の民法改正に関する記述が「女子差別撤廃委員会の最終見解も踏まえ」と記述されたことは、第2次の基本計画の「国民の議論が深まるよう引き続き努める」とした表現からは一歩前進であるが、もはや「検討を進める」段階ではない。法制審議会が5年の歳月をかけて審議し、15年も前に法務大臣に答申しているのであるから、速やかに閣議決定を行うべきである。

自民党政権下の2004年度に行われた中学校の教科書検定では、民法改正に関する肯定的な記述に検定意見を付け、削除あるいは後退させたことから、2010年度には、各教科書会社が自主規制を行い民法改正に関する記述を見送った。夫婦別姓を取り上げた1社が、夫婦別姓に関する世論調査結果を示し、「夫婦同姓制度も家族の一体感を保つ働きをしていると考えられています」と、民法改正に否定的な記述をしているが、同教科書は女性差別撤廃条約を教えないばかりか、09年のCEDAWの総括所見を蔑にするものである。条約締約国の責務として、条約や総括所見を正しく周知するべきである。

民法改正が実現しないのは、多くが政治(立法政策)の問題である。政府(法務省)は96年の法制審答申を受けて法案提出の準備に取りかかったが、事実上の決定機関である与党の法務部会で了承されず、閣議決定を見送った経緯がある。政府、特に内閣府男女共同参画局が民法改正実現に向け努力していることは評価する。ただし、法や制度の差別撤廃に反対し、条約実施を阻む議員に対しては、条約の締約国の責務として国内法を整備する義務を負っていることや、条約には法的拘束力があり立法府が問われているのだということを説明する努力が必要だ。また、差別撤廃に尽力するよう促す努力も不可欠である。

 

U 暫定的特別措置 パラ28

1.労働分野

1)総括所見以降の動き 
男女共同参画会議 基本問題・影響調査専門調査会の一環としてポジティブ・アクション・ワーキング・グループ(PAWG)が本年3月よりが開始され、6月17日で6回の審議が行われている。これまでの審議では、「指導的地位に占める女性の割合が2020年30%」の実現にむけた強制力のある施策の実施の方向性は見えていない。
5月20日には「平成22年度版 働く女性の実情」が公表された。それによると男女賃金格差は一般労働者で69.8から69.3、うち正社員・正職員で72.6から72.1と共に0.5ポイントも格差が拡大し、正社員・政職員以外は77.5から74.7と2.8ポイントも格差が拡大したことが判明した。その理由については「職階の違いによる影響が大きい」としているが、従来との違いは不明で格差が拡大した説明にはなっていない。

本年3月17日広島地裁から中国電力男女賃金差別裁判(原告1名)で原告請求棄却の判決が出された。棄却となった理由の一つに1997年に実施された女性社員へのアンケート(1回のみ実施。「家庭との両立が難しい」「責任が重くなる」「転勤がある」などの理由により、全女性の75%が「管理職にチャレンジしたいと思わない」と回答)を理由に男女間の格差を正当化した。司法が女性差別撤廃条約を法的効力のあるものとして認識していない実態が現在も続いている。本件は原告が広島高裁に控訴し、継続中。

一方、2010年12月には研究者により「同一価値労働同一賃金原則の実施システム」−公平な賃金の実現にむけて−(森ます美・浅倉むつ子編)が出版された。本書には2007年〜2008年にかけて実施された医療・介護サービス職とスーパーマーケット販売・加工職の正規・非正規従業員に対する職務評価結果が示され、仕事の価値と賃金との乖離が明らかになった。

また、元京ガス男女差別裁判原告(ペイエクイティ・コンサルティング・オフィス(PECO))と均等待遇アクション21が職務評価の実践を普及するDVD を作成した。


「ジェンダー平等社会をめざして〜やってみよう!職務評価 」2011年7月発行
2)JNNCからの提言

 第3次男女共同参画基本計画で明らかになった数値目標は以下の2点である。
  *成果目標として
民間企業の課長相当職以上に占める女性の割合:6.5%(2009)→10%程度(2015)
*具体的施策として企業における積極的是正措置(ポジティブ・アクション)の検討
ポジティブ・アクション取組企業数の割合:30.2%(2009)→40%超(2014)

これらの目標は「指導的地位に占める女性の割合が2020年30%」には距離があるが、目標達成にために以下具体的に提言する。

@管理職比率の向上にむけて

ポジティブ・アクション実施の前提として、1999年まで企業の有価証券報告書に記載されていた従業員の男女別状況(人数、平均年齢、勤続年数、平均賃金)の復活と男女別管理職数(部・課長)の記載を義務付ける。現在の上場企業数は4925社(一部重複上場あり)あり、この義務付けにより企業実態を明らかにし、活用できるジェンダー統計となる。

「2020年30%」の実現には公的機関はもとより、民間企業での前進が必要である。1000人以上の企業では課長相当職の女性比率は3.1%に過ぎない(2010年7月公表、2009年度雇用均等基本調査 対象5932企業、有効回答4217企業)。

A企業労使によるポジティブ・アクション推進にむけた強力な動機づけ

基本計画の推進企業の表彰や公共調達における企業評価に加えて
・企業内にポジティブ・アクション推進委員会を労使で設置する
・前進した成果を上げた企業への税制面での支援の明確化する
育児休業・短時間勤務などの取得を昇進・昇格の評価項目としない仕組みの徹底

ポジティブ・アクション取組企業数は2009年度30.2%で、企業規模30人以上の平均である。しかし1000人以上の企業では62.8%、5000人以上では76.2%が取組んでいる。にもかかわらず、課長相当職の女性比率は共に3.1%、部長では1000人以上1.1%、5000人以上1.2%という少数である(2009年度雇用均等基本調査)。
均等法改定による差別禁止から10年も経た時点の実態であり、ポジティブ・アクションの取組内容の是非、何がネックかの分析が必要である。管理職数の増加には上記@による実態の公開と合わせ、より強力な推進の動機づけが必要である。
WWNヒアリング調査によれば、育児休業がはばむ昇進の道(キャリア・リセット)は30代の女性の悩みであり、生え抜きの執行役員が誕生した企業では育児休業を勤続年数や人事考課に反映させていない。

B採用における男女比率の改善

積極的な女性の採用を(入口での男女平等)

企業における男女比率は、従業員数が多い企業ほど女性比率が少なく、300人以上の企業では女性比率は36.3%に過ぎない(総務省2006(平成18)年事業所・企業統計)。
大卒では男女とも採用するのは事務・営業系では43.7%だが、技術系では31.5%と少なく、男子のみ採用が56.9%にもなる。
短大・高専卒では事務・営業系は女性のみ採用が70.8%にもなり、技術系では男性のみ採用が65.8%、高卒でも同様の傾向にある(2009年度雇用均等基本調査)。

C継続就業が可能な制度の充実

意思決定の場における女性比率の向上には具体的かつ早急な施策が必要である。その有効な手段として
・長時間労働をなくし日常的に男性の育児参加を可能にすること
(時間外労働規制の強化・・1日の時間規制と年間120時間規制)
・子育て期の短時間勤務の推進強化・・女性が多い中・小企業への導入と期間の延長
・転勤をキャリアアップの要件としない方針の明確化
(兼松高裁判決は転勤を格差の合理的理由と認めていない)
・いったん離職してもキャリアが評価される仕組み実現
・有期雇用者も育児休業取得を可能にするための条件整備

基本計画においてM字型の底上げ(25-44歳の就業率を2009年66%→2020年73%に)と第1子出産前後の継続就業率(2009年38%→2020年55%)を成果目標に掲げている。
平成22年度版働く女性の実情ではこの10年で「25〜34歳」の就業率が上昇したが、特徴的なのは非正規雇用が増大していることだ。これでは管理職数も増えず、賃金格差も縮小しない。離職しても転職してもキャリアが評価されること、均等待遇が重要である。
育児のための短時間勤務制度は47.6%の事業所に導入されているが、その期間は3歳までが28.7%、小学校入学までが11.9%、3年生(9歳)まで2.9%、小学校卒業までは1.3%である(2009年度雇用均等基本調査)。制度の拡充により継続就業が増加することは、女性の管理職登用、賃金格差是正につながる。

D同一価値労働同一報酬原則(ILO100号条約)の実効性確保のため国際基準に基づく職務評価手法等の研究開発にむけ研究会の早急な立ち上げ

女性が多い職種の評価が正当に行われ、女性が昇格から排除されている実態を改善することが必要であり、職務評価手法等の研究会の早急な立ち上げを行う。
・研究会には職務評価の研究を行ってきた学者と裁判や労働組合を通じ実践してきた労働者も加え、職場で具体化できるプログラムを迅速に作成する
・職務評価は性差別是正とともに非正規雇用(パート・派遣)労働者の賃金・待遇向上に結び付く

司法がILO100号条約や女性差別撤廃条約を判断根拠として、具体的に男女賃金格差是正につながる判断を行うよう、条約が求める内容を司法関係者に周知すること早急に求められる。現在兼松事件、昭和シェル(野崎)、昭和シェル(集団)の3事件につき3組合がILO100号条約違反としてILOに申立を行い、審理中である。中国電力男女差別事件の控訴審においてもILO100号条約や女性差別撤廃条約に基づく司法判断がなされるべきである。

コース別雇用を行っている企業数は2006年度「女性雇用管理基本調査」(厚生労働省)では、調査に回答した常用労働者30人以上の民営企業5,937社の中で、コース別雇用管理制度を導入している企業は11.1%であった。1998年度の調査では2.9%であった。2007年以降については残念ながら国の調査がない。間接差別の一つとみなされる本制度の調査が行われていないこと自体問題である。
2007年都道府県雇用均等室調査が行ったコース別雇用を行っている企業123社へのヒアリング調査によれば、300人以上の企業が99社であり、総合職に占める女性割合は6%に過ぎず、10%未満の企業が84.7%である。
WWNヒアリング調査によればコース別が女性の登用を阻害していること、コース別でない企業、外資系企業は女性が活躍しているという実態があり、雇用機会均等法の行政指針の「雇用管理区分」を廃止するべきである。

非正規雇用は全労働者の34%と増加しているが、その70%が女性であり、女性労働者の過半数が非正規雇用となっている。雇用の入り口での性差別の改善が必要である。同一価値労働同一賃金の実現は正規から非正規への置き変えによるコスト削減という不公正な状況を改善し、非正規雇用の70%が女性という性差別状況の改善につながる。

Eパート労働法8条差別禁止3要件の修正

3要件 に該当し、差別が禁止されるパート労働者は0.1%しかいないことが「短時間労働者実態調査(2010年)(労働政策研究・研修機構)」で明らかとなった。3要件は差別を固定化するものであり、「人材活用の仕組み」「期間の定めのない労働契約」の2要件を削除し、「職務の内容」が同一であれば差別禁止とすること。
また厚労省が2010年3月に公表した「パート社員の職務分析・職務評価マニュアル」は「同じ職務、同じレベルの責任」の場合に限定されており、パート労働者の仕事の価値評価を恣意的に低下させ、使用者が格差を合理化させる内容となっている。ジェンダーに中立な基準により、男女平等並びにパートタイムとフルタイムの均等待遇を目的とする国際基準(4大要素:スキル、負担、責任、労働環境)を満たすものに改定すべきである。


パート労働法第8条で差別が禁止される労働者は正規労働者と@職務の内容、A人材活用の仕組みや運用など<転勤や配置転換の有無及び範囲>、B契約期間、の3要件が通常労働者と同じであることが必要。
 
 
2.政治的・公的活動・学界分野を中心にした意思決定への女性の参加
1)

日本政府は、国連女性の10年の2年目にあたる1977年から、男女共同参画社会の実現のために積極的改善措置の必要性を認識している。それを決定したのは当時の婦人問題企画推進本部である。「婦人の政策決定参加を促進する特別活動推進要綱」に始まり、以来、政府・内閣府の意思表明は、1990年代に加速し、毎年のように回数を重ねている。しかし、それらの方針は国が直接関与する国家公務員や国の審議会に関するものが多く、政治やその他の領域については一般論にとどまっている。国の審議会関係を除けば、国会議員への進出をはじめ、女性の意思決定分野への参画は遅々として進んでいない。国連の求めるNGOとの連帯も「聞き置く」「知らしめる」に留まっている。

  以下は、それらの実態を踏まえての提言である。
なお、JNNCは、2011年の統一地方選挙を前に、女性の政治参加に関わる簡単な調査を10政党に対して行った。回答を寄せた政党は5政党にとどまったが、回答した主な政党は、すべて積極的改善措置を採ることに賛成している。(資料1)

2)JNNCからの提言

(1)上に述べた通り、政府は男女共同参画社会を実現するために女性が各分野の政策・意思決定に参画することの重要性を指摘してきたが、その成果が上がっていないことを見れば、所管する国家機関の在り方そのものから問い直すべきではなかろうか。現男女共同参画推進本部は内閣総理大臣以下、官房長官、特命担当大臣、すべての国務大臣で構成されている政府の男女共同参画社会実現の最高機関である。2003年の男女共同参画推進本部による積極的改善措置により2020年までに指導的な地位への女性参加を30%とする達成目標は、第2次基本計画(2005)にも明記されたが、成果はあまりに遅い。この間の遅々たる歩みは反省するだけでは足りない。実現が遅れた理由についての誠実かつ真剣な検証と具体的行動が必須である。
さらに、現政権は、大臣、副大臣等の女性割合が著しく低くかろうじて各1名となっていたが、6月27日、唯一の女性閣僚は首相補佐官に転じ、女性大臣はゼロとなった。男女平等を進めるという締約国の責務、総括所見に対する誠実な姿勢を示しているとは言い難い。おりしも日本は3月11日に大災害に見舞われたが、その甚大な被害への対応及び復興のための会議等の意思決定にも女性の参加がほとんど見られない。このような時こそ、政策決定、意思決定に女性の参画が不可欠である。ただちに男女共同参画社会の実現に向ける政府の意思を具体的に示すべきである。

(2)第3次男女共同参画基本計画が成果目標と期限を定めたことは評価できるが、策定後の具体的取組が見えない。それぞれの目標数値は「少なくとも」の数値である。数値のみが独り歩きをし、数値さえ達成すれば事足れりとならないよう、実効性ある具体策に着手すると同時に、男女共同参画社会の実現に寄与しているかという検証が必要である。同時にそのために必要なら目標数値を再検討すべきである。

(3)今後の具体案を示すべき第3次基本計画では、国の機関のうち審議会等での目標30%が40%以上60%以下に見直されたが、その他の領域の指導的地位に関する女性比率は極めて低い。領域ごとにその理由、背景、条件整備等の研究を行い、結果の平等につながる改善の道をつけるべきである。特に女性の参画ゼロの領域、女性率アップの歩みの顕著に遅い領域、構成員に女性比率が高いにもかかわらず女性指導者が一桁にとどまる領域などについて、重点的に検証すべきである。

(4)女性差別撤廃委員会の国会議員に関する声明の趣旨からも、国会議員の役割は、その責任の重さとともにもっと強調され、自覚されるべきである。女性に対する差別を含む法律の見直しが進まないこと、差別を解消するための法体系づくりが進まないことなどにかんがみ、女性の差別解消、女性の意思決定への参画についての国会議員教育を行う必要がある。

(5)政府は、新メンバーによる男女共同参画会議監視専門調査会および男女共同参画会議基本問題・影響調査専門調査会のポジティブ・アクション・ワーキング・グループが2011年3月から会合を重ね、議論を急いできた。しかし、このワーキング・グループ設置の目的は、2010年12月に閣議決定された『第3次男女共同参画基本計画』の具体化を検討することであって、フォローアップ事項への回答や対応を検討するものではない。CEDAW の総括所見への対応ならば2009年から開催されてしかるべきところであった。さらに、条約の精神の具現化であるならば、CEDAWについての見識を欠く委員が散見されるのは遺憾である。
暫定的特別措置をめぐり、日本における課題、法的整合性などの議論は、すでに同じ参画局のポジティブ・アクション研究会が2003から2005年にかけて研究を行っている。今回のワーキング・グループは検討期間も短く、委員個人の見解が政府見解に反映する傾向が懸念される。

(6)暫定的特別措置に関する法や条例整備を急ぐこと、および、女性差別撤廃条約のフォローアップ項目を継続的に監視する機関の設置が必要である。条約の趣旨を徹底させるのに有効な手段である公共調達に関する男女共同参画視点の導入についても強制力を持って働きかけることを求める。

(7)政府とNGOとの連携については機能している段階とは言えない。
2011年6月17日、“CEDAW最終見解フォローアップ等について聞く会”が開かれたが、主催は、「男女共同参画推進本部」「男女共同参画会議」と並んで男女共同参画社会の形成を促進する推進体制の一翼を担う「男女共同参画推進連携会議」である。この連携会議は民間の有識者17名と団体推薦の89名からなり、情報提供、意見交換、国民的取組を推進する活動を目的としており、都道府県レベルの男女共同参画推進連携会議と連携する。企画委員会、情報・意見交換会、小委員会などを持つが、その活動は参画局の施策の説明を受け、その周知に協力するもので、独自のNGO意見の表明の場になっているかどうかは明らかではない。本年、フォローアップ事項に関連する小委員会が新設されたが、1年程度と予定された活動内容は加盟団体内の周知と情報交換である。事務局を男女共同参画局が担うことについての検証が必要であると同時に、この連携会議に加わる女性の人権や男女平等の実現に尽力しているNGOの意見がどのように反映されるかについて見えるようにするなど、改善すべき点がある。政府はこの連携会議を連携すべきNGOと認識しているのか、その他のNGOとの連携を政府がどのように位置づけるのかなど、NGOとの関係を構築する道は緒についたばかりで、CEDAWが2010年に採択したNGOに関する声明の示す役割を果たすNGOとの連携の在り方、一般市民やNGOの意向反映など、NGOと政府との連携については課題が残されている。

(8)選挙制度を性に中立な構造に再構築するために
@ 公職選挙法の見直しを直ちに行うべきである。小選挙区制度が女性の進出にとって不利であることはこれまでの選挙結果が示している。現行衆議院選挙は小選挙区と比例代表の並立制で単記制であるために圧倒的に現職に有利であり、党の公認を受ける時点ですでに男性の多い現職に有利になっている。有権者が女性候補に託した票が死票になる可能性が極めて高い現行制度をあらため、連記制、中選挙区制などを検討すべきである。
さらに、同様の並立制をとる参議院議員選挙は、実質的に比例区は全国区となって女性候補に特に過酷に働き、組織型候補、著名人、タレント候補が圧倒的に有利となる。その上、非拘束式の比例区名簿では、政党が候補者に期待する姿勢や意思が有権者に見えない。少数者を切り捨てる制度は、女性候補に不利であり、比例区の定数削減はもってのほかである。拘束式比例区名簿では、政党有力者の拘束力が働き、議員の自立性を損なうとの見方があるが、それは女性議員に限るものではない。それをもって非拘束方式に依拠するのは筋違いである。

A性別役割分担意識の根強い日本では制度的枠組みによって女性進出を支援することが必要である。世界女性議員比率の上位を占める15か国のうち、多数代表制を取るキューバを除き14か国が比例代表制を採っている。クオータ制については、法律で定めた国が15か国中6か国、政党によるものが6か国、定めのない国が3か国であるが、制度の有無はその国や政党の意思の表れである。
参画局は、男女平等や女性の参画促進に関する8か国の先進例を調査した。それらの国々の制度や仕組みはそれぞれ同じではないが、共通しているのは男女平等を進め、女性が政策・意思決定に参加することで新しい時代へ対応を行っていることだ。日本政府、議会、政党、その他の機関や組織が明確な意思を貫き、男女平等を進めるために具体的は法制度、仕組みづくりに実際に着手することを求める。

(9)地方公共団体の意思決定について
地方公共団体については、市町村合併による広域化、地域性の平準化などが、地域における女性の貢献にマイナスに働いている。さらに男性中心に形成されてきた地域共同体には家父長制時代の残滓が色濃く、女性の政治への直接参加や積極的意思決定への進出が困難な閉鎖性がある。農山漁村施策として、もっぱら農業委員や農協役員への女性参画が奨励されているが、農業委員4.9%、農協役員3%、認定農業者に占める女性が3.6%の現状は農業の担い手の半数が女性である実態が意思決定にまったく反映されていないとみるべきではないか。3月11日の大震災関連でも、避難所での意思決定は男性中心で進められ、女性被災者の意向は反映されにくい。
地域の意思決定は、有力者の意向に沿う従来型から、民主的な住民参加型仕組みに見直さなければ女性の進出と参加は進まない。女性に不利な仕組みを見直すよう、地方自治法、地方自治体の政策を構築すべきであり、国は男女共同参画の理念に沿って提案すべきである。
統一地方選に見られる男性優位の構造は、議会選挙の無競争率の高さ、首長選での現職追認、女性都道府県知事・町村議会の女性議員率が一桁台であるという低さに顕著で、女性町村長はゼロだった。例外として、2011年の選挙で女性議員ゼロの都道府県議会は解消された。
さらに地方公務員の上級職試験からの採用者に占める女性率は21.3%であるのに対し、課長相当職以上の女性職員は、都道府県・政令指定都市・市区町村すべてで一桁台にとどまっている。女性が管理職に進出することを阻害している状況についての考察を行い、条件整備に着手するべきである。
地方公共団体の審議会において、女性ゼロは減少方向にあるが、厳然と残っている。審議会委員の選考における専門領域、指定職、団体推薦などの男女偏向を精査し、意思決定における男性偏重を是正すべきである。

(10)平成23年1月14日現在の総合科学技術会議の有識者メンバー8名中、女性は2名にすぎない。学界を代表する日本学術会議において、女性会員は増加している。1975年の女性会員1名が、2008年には240人中43人(20.5%)に増え、連携会員も12.5%になっている。女性研究者の数は、この10年で2.85倍となり、その割合も7.3%から13.0%へと確実に増加している。しかし、学術会議の会長・副会長・部長・副部長とも女性はゼロで、かろうじて副部長につぐ幹事に女性が登場している。
各学会の女性会長は7.9%、女性役員比率は11.5%とまだ低率である。

(11)教育界の意思決定について。
@教育委員の女性比率は都道府県や政令指定都市で30%前後となっているが、女性がゼロの教育委員会も多い。教員、PTA活動などに占める女性比率の高さを考えると、教育現場の意向を反映するための女性教育委員の必要性は高まりこそすれ減ることはない。教育委員会は少人数で構成されるので、男女比の影響は大きい。軽視してはならない。

A学校管理職は、構成教員の女性比率とは大きくかけ離れている。小学校長がようやく18.4%に達したが、小学校教員の女性比率は62.8%である。昇任環境の改善施策を講じるべきである。さらに中学校長、高等学校長、大学学長における女性比率はまだ一桁台に留まる。女性教員比率は小学校ほど高くはないものの、中学校のように女性教員率41.9%からみても5.3%とは低すぎる。環境整備を念頭に状況を精査すべきである。

(12)意識変革と教育の必要性
@指導的地位への女性の参画の歩みが遅いのは、社会に根強い性別役割意識が一因である。その払拭策を具体化し、加速して実施、強化すべきである。同時に、政界・司法界をはじめ、女性の活用に影響力を持つ立場の者、人事権をもつ者の意識変革を積極的に働きかけるべきである。日本国憲法、女性差別撤廃条約、男女共同参画社会基本法などの理念に違反する状況を看過すべきではない。

A男女平等推進にむけた国民意識の醸成のために、女性差別撤廃条約、男女共同参画社会基本法、基本計画などの法制度を全教育課程に位置づけるべきである。

B義務教育課程に年齢に応じた政治教育を位置づけるべきである。政治教育とは、人間社会の仕組みやルールづくり、個人と社会の関わり、人権を相互に尊重する社会の構築や在りかたなどについて、どのように主体的に考えるか、参加するかを学ぶものである。

 
 
 
 


 






 

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